送りバントの効果とは？実は効果アリ‼【シミュレーションで検証】

 

⓪本記事の3行要約

• シミュレーションから送りバントの効果を検証したい。
• 2021年度ロッテの9番打者が送りバントを行うものとしてシミュレーションを行った。
• 送りバントによって平均得点は減少したが、勝率は少し改善した。

➀送りバントについて

-(1)送りバントとは

　送りバントとは、野球において実行される攻撃側の作戦の一つです。ここでは、打者があえてアウトになる様な打球を放つことによって、塁上の全走者を1塁分だけ進塁させようと試みます。そして、野手に全ての走者を1塁分進塁できるため成功といえます。

-(2)送りバントの論点

　このとき、打者のアウトは得点から遠ざかる負の要因ですが、走者の進塁は得点に一歩近づく正の要因です。そのため、送りバントが9イニングにおける得点にどのような影響を与えるかを単純に論じることはできません。また、送りバントにはバント失敗・エラー・フィールダースチョイスといったミスも伴うため、送りバントがイニング内の得点に与える影響はバント成功率や守備率に依存します。

-(3)本記事の方向性

　なお、本記事では分析方法にモンテカルロシミュレーションを利用するため、計算量の問題からバントミスや守備のミスを無視した形で分析を行います。具体的には、送りバントを行うチームと行わないチームによる試合をモンテカルロシミュレーションで再現することによって、送りバントの9イニングにおける効果を得点・勝利の観点から検証していきます。

➁モンテカルロシミュレーション方法

-(1)シミュレーションによる得点算出法

　本記事では、乱数によって打席結果を決定させるモンテカルロシミュレーションを用いて分析を行います。この算出法の大枠については過去の記事にて解説したためここでは触れませんが、次の仮定のもとで野球を疑似的にシミュレーションしている点に留意する必要があります。

-(2)シミュレーションの改善点

　大まかには野球を野球盤のように捉えたモデルであり、現実の競技とは大きくかけ離れた内容となっている点に注意が必要です。なお、ここでは2塁走者が単打で生還する確率を60％と仮定することにより、『野球のOR』や野球盤の再現において生じた2塁走者の扱いによるバイアスを解消しようと試みています。

-(3)送りバントの再現

　また、ここでは送りバントを打者がアウトとなる一方で全走者が1塁分だけ進塁するプレーであると定義し、バントミスや守備のミス(エラーやフィルダースチョイス)を無視します。すると、特定の送りバント状況において打席のシミュレーションは行わずに、打者のアウトと全走者の1塁分進塁処理を行うことによって送りバントのプレーを表現できます。

-(4)対戦のシミュレーション方法

　さらに、ここでは2チームを対象に9イニングのシミュレーションを行うことで得点を計算し、その総得点数が高いチームを勝利チームとすることで試合を疑似的にシミュレーションしています。このとき、この方法では実際には行われないイニング(ホームチームリード時の9回裏)もシミュレーションしているため、打点数においてバイアスが発生することに注意する必要があります。

[仮定]

• 打席結果は表1の6種類のみで成績に従って確率的に決定される。
• 走塁は打席結果のみに従い、表1のとおりに対応する。
• 2塁走者が単打で生還する確率pは0.6である。
• 以上の仮定で想定されないプレー(盗塁・失策等)は無視する。

※『野球のOR』における期待得点と得点確率の算出法の解説はこちら

・ブログ記事：野球盤をモンテカルロシミュレーションとして再現する。

・公開コード：Google Colaboratory「野球盤をモンテカルロシミュレーションとして再現する。」

③対戦結果

-(1)対戦方法

 　ここでは、ロッテの2021年度打順別先発出場選手成績を用いて143000試合のシミュレーションを行いました。なお、このシミュレーションでは送りバントを実施しない(送りバントなし)チームと送りバントを実施する(送りバントあり)チームの2チームに総得点を競い合わせています。

-(2)送りバントの条件とその根拠

　また、ここでは送りバントありチームの9番打者が無死一塁時に送りバントを行うものとして設定しています。これは、過去の記事において無死1塁時に送りバントの効果が最大であり、ロッテで最も送りバントを実施していた打順が9番であったためこのように設定しています。

-(3)シミュレーション結果

　その結果をまとめたものが以下の表2・3です。これによると、送りバントの導入によって総得点数はわずかに減少しましたが、送りバントなしチームよりも少しだけ勝ち越せるようなりました。そのため、ロッテにおける無死一塁時の送りバントは少なくとも常に強攻するよりも有効であるといえます。

-(4)シミュレーションの限界

　しかし、モンテカルロシミュレーションの分析には偶然に極端な結果が得られる可能性があるため、今回の分析が偶然の産物である可能性を否定できません。そのため、将来的にはモンテカルロシミュレーションに頼らない分析から送りバントの9イニングにおける効果を検証する必要がありそうです。

※送りバントの効果の解説はこちら

・ブログ記事：チーム別で送りバントの効果を検証する

・公開コード：Google Colaboratory「チーム別で送りバントの効果を検証する」

④おわりに

-(1)まとめ

　今回はモンテカルロシミュレーションを利用して、2021年度ロッテにおける送りバントの効果を検証しました。その結果、送りバントを行うチームではシーズン総得点数がわずかに減少したものの、勝利確率はほんの少しですが上昇しました。よって、送りバントはほとんど効果の無いともいえますが、少なくとも常に強行するよりも有効な作戦です。

-(2)今後の展望

　しかし、この分析結果が偶然である可能性を否定できません。そのため、将来的にはモンテカルロシミュレーションに頼らない分析から送りバントの効果を検証したいと思います。(⇒方程式のモデルによる分析結果はこちら)

☆Pythonコード・計算の詳細はこちら

　⇒https://colab.research.google.com/drive/13wmAQSYTKUlg-wGAd4mxVzfBzhaUn9_p?usp=sharing