名監督とは？阪神の矢野監督は優秀‼【シミュレーションで検証】

 

⓪本記事の3行要約

• モンテカルロシミュレーションから監督の能力を検証したい。
• シミュレーションにより模擬上のシーズン総得点を計算した。
• 阪神の矢野監督は攻撃面において優秀であった。

※本記事は過去の記事に打順の概念を導入して再分析したものです。

　⇒監督の能力を検証する①(均一な打者を仮定した9イニング)

➀監督の能力について

-(1)監督の能力とは

　プロ野球の監督は試合においてどのような役割を担っているのでしょうか。例えば、選手を適材適所に配置することで実力通りのパフォーマンスを発揮させたり、モチベーションを刺激することで選手の実力を超えたパフォーマンスを発揮させることもも監督の役割の一部でしょう。

-(2)攻撃面における戦術力

　しかし、現場の最高責任者として担われる監督最大の役割とは、発揮された選手の実力を有効に活用して失点を減らし得点を増やすマネジメントではないでしょうか。具体的には、適切な場面で送りバントやヒットエンドランといったサインを出すことで、ただ単に強攻するときよりも多くの得点を獲得させるようなマネジメントのことです。

-(3)本記事の方向性

　よって、本記事では実際のシーズン総得点とモンテカルロシミュレーションによるシーズン総得点を比較することで、発揮された選手の実力から得点を最大化させるような監督の能力を分析します。

➁理論上のシーズン総得点算出法

-(1)シミュレーションによる得点算出法

　本記事では、乱数によって打席結果を決定させるモンテカルロシミュレーションを用いて分析を行います。この算出法の大枠については過去の記事にて解説したためここでは触れませんが、次の仮定のもとで野球を疑似的にシミュレーションしている点に留意する必要があります。

-(2)シミュレーションの改善点

　大まかには野球を野球盤のように捉えたモデルであり、現実の競技とは大きくかけ離れた内容となっている点に注意が必要です。なお、ここでは2塁走者が単打で生還する確率を60％と仮定することにより、『野球のOR』や野球盤の再現において生じた2塁走者の扱いによるバイアスを解消しようと試みています。

[仮定]

• 打席結果は表1の6種類のみで成績に従って確率的に決定される。
• 走塁は打席結果のみに従い、表1のとおりに対応する。
• 2塁走者が単打で生還する確率pは0.6である。
• 以上の仮定で想定されないプレー(盗塁・失策等)は無視する。

※『野球のOR』における期待得点と得点確率の算出法の解説はこちら 

・ブログ記事：野球盤をモンテカルロシミュレーションとして再現する。

・公開コード：Google Colaboratory「野球盤をモンテカルロシミュレーションとして再現する。」

③模擬上のシーズン総得点算出法

-(1)シーズン総得点の近似方法

　ここでは、2021年度NPBの打順別先発出場選手成績を用いて先述のシミュレーションを14300回行うことにより、8イニングと9イニングにおける平均総得点を計算します。すると、シーズン総得点は以下の通りに近似して表すことができます。

・模擬上のシーズン総得点

=

ホームセーブ数×8回の平均総得点+ (143−ホームセーブ数)×9回の平均総得点

-(2)近似の限界

　このとき、サヨナラ勝ち・雨天コールド・延長戦時には1試合のイニング数は9以外の値をとり得ます。また、ホーム戦における完投勝利時のイニング数を9とみなしている点にも注意が必要です。これらの理由により、想定する攻撃イニング数と実際の攻撃イニング数は完全には一致せず、分析においてバイアスが発生する可能性がある点に留意しなければなりません。

④NPB各球団におけるシーズン総得点

-(1)シミュレーション結果

　表2・3は2021年度のNPBにおいて記録された得点と模擬上の得点を示したものです。これによると、ほとんどのチームにおいて実際のシーズン総得点が模擬上のシーズン総得点を上回っています。ただし、これは期待得点の算出法で想定されなかったチャンスの強さによって発生したモデルとの乖離が原因であるかもしれません。また、ここではシミュレーションに打順別先発出場選手成績を用いているため、層の厚さ(控え選手の優秀さ)は模擬上のシーズン総得点に反映されていません。

-(2)監督能力の識別方法

　しかし、チャンスの強さだけで単純にシーズン総得点の傾向をを説明できるものでもなさそうです。また、スタメンを決定しているのは主に監督であるため、層の厚さの影響を考慮する必要はあまりないでしょう。よって、ここではチャンスの強さで説明できない要因は全て監督の能力であるとみなし、実際の得点と模擬上の得点から監督の能力を検証します。

-(3)名監督の候補

　まず、阪神は卓越して実際のシーズン総得点が模擬上のシーズン総得点を上回っていました。そのため、矢野監督は攻撃面において優秀な監督であると考えられるでしょう。また、ヤクルトと中日は得点圏と非得点圏における打率の差が負であるにも関わらずシーズン総得点が模擬上のシーズン総得点を大きく上回っています。そのため、高津監督と与田監督も優れた監督だと考えられます。

-(4)残念な？監督の候補

　逆に、楽天は唯一実際のシーズン総得点が模擬上のシーズン総得点を下回っていました。そのため、石井監督は攻撃面において優秀な監督といえないかもしれません。また、DeNAとソフトバンクは得点圏と非得点圏における打率の差が正であるにも関わらずシーズン総得点が模擬上のシーズン総得点をあまり上回っていません。そのため、三浦監督と工藤監督も優れた監督とは言えないかもしれません。

-(5)シミュレーションの限界

　しかし、モンテカルロシミュレーションの分析には偶然に極端な結果が得られる可能性があるため、今回の分析が偶然の産物である可能性を否定できません。そのため、将来的にはモンテカルロシミュレーションに頼らない分析から監督の能力を検証する必要がありそうです。

　

⑤おわりに

-(1)まとめ

　本記事ではモンテカルロシミュレーションを利用して、2021年度のNPBにおける監督能力の検証を行いました。その結果、今期限りでの退任が発表された阪神の矢野監督が攻撃面において非常に優秀であることが明らかとなりました。また、楽天の石井監督は攻撃面であまり高いパフォーマンスを発揮できなかったようです。

-(2)今後の展望

　しかし、この分析結果が偶然である可能性を否定できません。そのため、将来的にはモンテカルロシミュレーションに頼らない分析から監督の能力を検証しようと思います。

☆Pythonコード・計算の詳細はこちら
　⇒Google Colaboratory「監督の能力を検証する➁」