⓪本記事の3行要約
- シミュレーションからDH制が打てる投手の価値に与える影響を検証したい。
- 2017年度DeNAの試合をシミュレーションした。
- ウィーランド選手は一試合当たり0.34点・勝率2分の価値が失われた。
➀打てる投手について
-(1)打てる投手とは
打てる投手とは、投手であるにもかかわらず打撃が得意である選手の総称です。例えば、NPB通算打率が2割を超える元巨人の桑田真澄選手やセンバツ最多安打記録保持者であるオリックスの山崎福也選手は打てる投手であるといえるでしょう。
-(2)DH制が打てる投手に与える影響
-(3)本記事の方向性
➁モンテカルロシミュレーション方法
-(1)シミュレーションによる得点算出法
本記事では、乱数によって打席結果を決定させるモンテカルロシミュレーションを用いて分析を行います。この算出法の大枠については過去の記事にて解説したためここでは触れませんが、次の仮定のもとで野球を疑似的にシミュレーションしている点に留意する必要があります。
-(2)シミュレーションの改善点
大まかには野球を野球盤のように捉えたモデルであり、現実の競技とは大きくかけ離れた内容となっている点に注意が必要です。なお、ここでは2塁走者が単打で生還する確率を60%と仮定することにより、『野球のOR』や野球盤の再現において生じた2塁走者の扱いによるバイアスを解消しようと試みています。
-(3)投手に対する代打の再現
また、ここでは7回以降に投手へ打席が回ってきた場合には、控え選手が代打として起用されるものとして分析します。
-(4)対戦のシミュレーション方法
さらに、ここでは2チームを対象に9イニングのシミュレーションを行うことで得点を計算し、その総得点数が高いチームを勝利チームとすることで試合を疑似的にシミュレーションしています。このとき、この方法では実際には行われないイニング(ホームチームリード時の9回裏)もシミュレーションしているため、打点数においてバイアスが発生することに注意する必要があります。
[仮定]
- 打席結果は表1の6種類のみで成績に従って確率的に決定される。
- 走塁は打席結果のみに従い、表1のとおりに対応する。
- 2塁走者が単打で生還する確率pは0.6である。
- 以上の仮定で想定されないプレー(盗塁・失策等)は無視する。
※『野球のOR』における期待得点と得点確率の算出法の解説はこちら
③対戦結果
-(1)分析方法
ここでは、DeNAの2017年度打順別先発出場選手成績を用いて143000試合のシミュレーションを行いました。なお、このシミュレーションではウィーランド(ウィーランドを8番投手で起用)チームと平均的な投手(元の打順)チームの2チームに総得点を競い合わせています。このとき、ウィーランド選手の成績はNPB通算成績(OPS:0.661)を利用しています。
-(2)シミュレーション結果
その結果をまとめたものが以下の表2・3です。これによると、野手並みに打てる投手が起用されることにより、シーズン総得点と勝率が改善されています。そのため、やはり打てる投手はDH制が採用されていない状況下において、投手能力以外のプレミアムを持つと考えられます。また、2017年度において投手は8番と9番として起用されていたため、実際にはさらに大きい影響があると考えられます。
-(3)考察と解釈
このとき、DH制が採用された場合には両チームのスタメンに差がなくなるため、両チームの期待得点は一致して勝率も5割になると考えられます。よって、ウィーランド選手が打てることによる改善(シーズン得点52点・勝率2分)は、DH制が採用された場合には失われてしまいます。よって、これがDH制が投手の価値に与える影響です。
-(4)シミュレーションの限界
しかし、モンテカルロシミュレーションの分析には偶然に極端な結果が得られる可能性があるため、今回の分析が偶然の産物である可能性を否定できません。そのため、将来的にはモンテカルロシミュレーションに頼らない分析からDH制が投手の価値に与える影響を検証する必要がありそうです。
④おわりに
-(1)まとめ
本記事では、モンテカルロシミュレーションを利用して2017年度のDeNAにおける打てる投手の価値を検証しました。その結果、ウィーランド選手においてはシーズン換算で52得点・勝率2分が失われることが明らかとなりました。そのため、DH制の採用によって勝率が少しだけ悪化する投手は現れるかもしれません。
-(2)今後の展望
しかし、この分析結果が偶然である可能性を否定できません。そのため、将来的にはモンテカルロシミュレーションに頼らない分析から投手故意三振の効果を検証したいと思います。
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