⓪本記事の3行要約
- モンテカルロシミュレーションからDH制が防御率に与える影響を検証したい。
- 2021年度セリーグの打順別先発出場選手成績から得点を計算した。
- DH制の導入によって防御率は9%大きくなると推定された。
➀DH制について
-(1)DH制とは
DH制とは、指名された野手が投手の代わりに打席に入る制度です。このとき、投手の代わりに打席に入る野手を「指名打者」といい、この野手は守備機会につかずに打席に立ち続けます。
-(2)DH制による防御率の比較不可能性
日本において、パリーグではこのDH制度が採用されていますが、セリーグにおいては採用されていません。そのため、リーグ間の成績が比較不可能になっているという現状があります。例えば、広島の森下投手(防御率2.98)と楽天の田中投手(防御率3.01)を比較して、森下投手の方が防御率が低いため優れているとは言えません。なぜなら、田中投手は野手に投球した結果として得られた防御率が3.01なのですが、森下投手の場合には投手にも投げた結果として得られた防御率2.98がなのです。
-(3)本記事の方向性
そこで、本記事ではモンテカルロシミュレーションから8・9イニングにおける得点数を計算することによって、DH制が投手の防御率に対して与える影響を検証します。これにより、リーグ間の構造的な問題によって生じる防御率の差を説明することができます。
➁シミュレーション方法
-(1)シミュレーションによる得点算出法
本記事では、乱数によって打席結果を決定させるモンテカルロシミュレーションを用いて分析を行います。この算出法の大枠については過去の記事にて解説したためここでは触れませんが、次の仮定のもとで野球を疑似的にシミュレーションしている点に留意する必要があります。
-(2)シミュレーションの改善点
大まかには野球を野球盤のように捉えたモデルであり、現実の競技とは大きくかけ離れた内容となっている点に注意が必要です。なお、ここでは2塁走者が単打で生還する確率を60%と仮定することにより、『野球のOR』や野球盤の再現において生じた2塁走者の扱いによるバイアスを解消しようと試みています。
-(3)投手に対する代打とDH制の再現
また、ここでは7回以降に投手へ打席が回ってきた場合には控え選手が代打として起用されるものとしており、DH制ありの場合には9番に控え選手が起用されるものとしてシミュレーションしています。
[仮定]
- 打席結果は表1の6種類のみで成績に従って確率的に決定される。
- 走塁は打席結果のみに従い、表1のとおりに対応する。
- 2塁走者が単打で生還する確率pは0.6である。
- 以上の仮定で想定されないプレー(盗塁・失策等)は無視する。
※『野球のOR』における期待得点と得点確率の算出法の解説はこちら
③シミュレーション結果
-(1)分析方法
ここでは、2021年度セリーグ各球団の打順別先発出場選手成績をもとに8・9イニングのシミュレーションをそれぞれ28600試合行いました。そして、それぞれの打順における各打者の打点数を計算しています。
-(2)シミュレーション結果
その結果をまとめたものが表2です。これによると、DH制の導入によって各球団の得点数はおおよそ1.09倍に増加しています。また、その影響の大きさはチームによって異なります。ヤクルトと中日は得点数が全体で10%以上増加する見込みですが、DeNAは6%ほどしか増加しないようです。
④おわりに
本記事では、モンテカルロシミュレーションを利用してDH制が防御率に与える影響を分析しました。その結果、DH制の導入によってセリーグの防御率は平均して9%増加することが明らかとなりました。そのため、森下投手よりも田中投手の方が優れた防御率をマークしているといえるかもしれません。
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